【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第194話:社員の意識を経営者レベルに引き上げる唯一の方法

「中川さんのコラムを読んで、あらためて自分の考えを整理して伝えました。彼らに響いているといいですが…」
お仲間の経営者が私のコラム「第189話:社員が動かない…そんな会社への処方箋」をお読みになって、早速ご自身の想いを社員にぶつけてみたとのことです。
「大変いいことですね。そのあとはどうされました?」と私が聞いてみると、「え? そのあと? 別に何もしてませんけど…」とのお返事。
「では早速やってみましょう。彼らに「経営者の思い」を考えてもらうんです」
「え? 経営者の思い? 社員にですか?…」
当コラムでも再三に取り上げているテーマですが、多くの場合社長と社員の意識のレベルには随分差があります。社長がいくら将来のビジョンを語っても、社員は「それは別にいいけど、現場のことをもっと考えてくれよ…」と、平行線をたどります。
「なぜもっと大きな視点で考えてくれないのか…」と嘆きたくなる社長も多いことでしょう。
冒頭の社長もやられたように、社長は自身の想いや会社のビジョンをしつこく語る必要があります。これは年に一回の経営会議で話せばいいというようなことではなく、昼休みでも移動中でも、隙あらば常に伝えるぐらいでないといけません。とにかく本気度を見せつけることです。
しかしながら、社長から社員への一方通行のコミュニケーションでは、社員はそれを自分事として捉えることはないでしょう。多くの場合、彼らの頭の中は目の前のオペレーションのことでいっぱいいっぱいだからです。
ではどうすれば社員は経営者の視点で考えてくれるのでしょうか? もしかしたら自社の社員に「経営者の視点に立って考えろ!」と言われたことがある方もいらっしゃるかもしれません。でも考えてくれないですよね(苦笑)。例えば会議で社員に会社の経営課題について聞いてみたとしても、大した答えは返ってこないのではないでしょうか。
ではどうすればいいのか…。
その答えは、
「書かせる」
です。
彼らに「経営者の視点で見たときに、当社の一番の課題は何か?」、そして「自分が経営者だったらその課題をどうやって解決するか?」といったレポートを書かせるのです。
「いや、たいした答えは出てこないですよ」と言われるかもしれませんが、それはそれでしょうがないことです。そこが出発点となります。
なぜ口頭ではなく書かせるのか? ここがポイントなのですが、「頭の中で考える」というのは実は思考の上級者だけができることで、普通は「書かないと考えられない」のです。
「書かないと考えられない」― 頭の中で考えているうちは、考えが整理されずに堂々巡りになったり、ただ悩んでいるだけとなりがちです。
脳科学の研究でも、「脳は自分が考えたことを視覚でとらえてはじめて認識する」と言われています。つまり、自分の考えというのは外に書き出さない限り脳が理解しない、ということになります。
事実、数多くの著名な経営者やコンサルタントなどの戦略家が「書いて考える」ことの重要性を唱えています。私自身も若い頃から「考える=書く」と教え込まれており、何かを考えるときには必ず書きながら考えます。
書き出したものを視覚でとらえることで、自分の考えが「メタ認知」でき、そこからさらに深く考えることができるようになります。つまり、書き出してはじめて「自分の考えの浅さや偏りに気づく」というわけです。
社員に前述のレポートを書かせたときに、おそらくその内容のレベルの低さに絶望を味わわれることでしょう。そんなときはすかさずその社員に聞いてください。「この内容をやったらわが社は5年先も安泰か?」と。
そこから議論を展開してください。
なぜここに書かれているような問題が起こっているのか?
その根本原因は何か?
ほかにも重要な課題はないのか?
あるとしたらなぜそれが起こっているのか?
こうやって当社の「問題のボトム」を一緒に探っていってください。その思考プロセスを一緒にたどることで、彼らの視点も上がってくるはずです。
そのうえでまたレポートを書かせればいいでしょう。私のクライアント企業でもこういったレポートを毎月書かせているところがあります。社員に定期的に「書かせる」ことで彼らの意識や思考力は向上しますし、なにより彼らが自分で書いたことに責任を持ち始めます。
社員にいい話を聞かせるだけではまったく意味がありません。インプットとアウトプットは必ずセットです。彼らにも考えさせる、そのために書かせる。ぜひ御社でも習慣にされると、必ず社員の思考力と行動力が上がります。
もちろん、社長ご自身も「書く」習慣を持たれてください。この世界は言葉でできています。経営も然りです。言葉が経営をつくります。
言葉が変われば、経営も変わります。