【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第230話:社長が押させておくべき「事業戦略を機能させる秘訣」

「御社は現状、どのような事業戦略を進められていますか?」ー 初回面談にお越しになったY社のY社長に私はお聞きしました。
「えっ、事業戦略ですか? 新規顧客を獲るとか、そういうのですかね?」
「そうですか。では新規顧客をどうやって獲る戦略ですか?」「えーっと、基本は営業に回らせるかたちです」
「なるほど。今年は何社獲得する計画ですか?」「いやあ、ちゃんとは決めてないですけど、30社とか?」
「ほかにはどのような戦略を挙げておられますか?」「えー、そうですねえ、まあいろいろありますけど・・・」
このような状況はY社に限ったことではありません。多くの中小企業において、事業戦略は機能していません。一言で言うと「戦略不在」または「戦略不全」です。
大企業と違ってヒトもモノもカネも限られている中小企業において、事業戦略を絞り込むことは何よりも重要といっても過言ではないですが、おそらくほとんどの中小企業でそれは実践されていません。
もっとも、「戦略」という言葉を普段から使っている企業はたくさんあります。営業戦略、マーケティング戦略、人事戦略、購買戦略…。
ただそれらは「戦術」や「アクションプラン」のレベルが「戦略」という言葉で語られているだけであって、実際には戦略と言えるものには程遠いというのが実態でしょう。
なぜそうなるのか。これは世の中の社長が無能だからではありません。戦略とはどのようなもので、どう遂行したらいいのかということについて、世の中でまともに伝えられていないからです。
営業のやり方、マーケティング手法、組織運営のやり方、人事評価制度、業務の効率化…いろんなノウハウを伝える講座や書籍はあれど、戦略経営の実践について具体的に解説しているものを見たことがありません。
つまり、「部分」ばかりが語られ「全体」が語られていないということです。そして、企業が「部分的な対処」をいくつも重ねていくと「全体」がよくなるのかと言うとそうはなりません。部分の集合が全体とはならないのです。
では、部分的な改善の打ち手(戦術)ではなく、事業を根本的に強くするような「全体」としての事業戦略はどのようなものなのか。
それを考える前にまず整理すべきことがあります。それは、「事業の根本的な課題は何か?」ということです。
中小企業の現場はおそらく問題が山積みとなっていることでしょう。しかし、それらを一個ずつ片付けていってもなかなか問題はなくなりません。それは、そういった問題が起こる根本的な原因を掴めていないからです。
一見バラバラに見える諸問題も、実は根っこの原因は繋がっていることがほとんどです。そしてその原因(=根本的な課題)は実は数はそれほどなく、概ね3つから4つに収まるはずです。
そういった3つないし4つの根本的な課題を洗い出せたらしめたもの。それらの課題を反転させる取り組みこそが事業戦略となります。従って、事業戦略もシンプルに3つ程度に収まるはずなのです。
おそらく多くの企業において、このように事業の根本的な課題を洗い出すステップが省かれ、骨太の戦略が語られることなしに様々な打ち手に飛びついてしまっている状況ではないでしょうか。
これはまるで、ダイエットをやろうとしていろんな食品や健康器具に片っ端から手を出しては「どれも効果がない」といってすぐにやめてしまうダイエット難民の女性たちと同じようなものです。
自社の商品・サービスが価格を下げないと売れない。
忙しい割に儲からない。
オペレーションが非効率で現場は問題多発。
クレームがなくならない。
常に社長が指示を出さないと社員は動かない。
社員が定着しない。優秀な人間ほど辞めていく。
そういった問題はすべて繋がっています。いろんな問題がバラバラに起こっているのではないのです。
そして、往々にしてこういった問題を抱える企業が共通して抱えている根本的な事業課題は何かというと、それは「事業モデルが陳腐化している」ということです。
一見、社内の問題が数多くあるように見えます。しかしそれらの多くは、そもそも自分たちがやっている事業モデルが平凡すぎることから来ています。つまり問題は社内ではなく社外── 市場や競合に対してのものなのです。
事業モデルが陳腐だから、
コストを下げるために量(数)を稼がないといけない…
顧客と人間関係を築くためにひたすら訪問しないといけない…
売れない営業マンのケツを叩き続けなければならない…
社員のモチベーションも上がらない…
こういったことになる。
事業構築は根本から手を打っていく必要があります。事業の根本というのは事業モデルです。顧客が待ち望んでいる新しい事業モデルをつくる。それで問題の多くは解決します。どこにでもあるものを必死に違うものに見せようとするからしんどいのです。
御社は事業が成長軌道に乗らない根本の原因に手を打てていますか? そして御社の事業モデルは陳腐化していませんか?
事業モデルを磨くことで、やがて事業全体が磨かれていきます。