【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第17話: 社長が知っておくべき「お金を使う」ことへの心構え

お金を残したいと考える経営者は多いです。確かに、企業はお金が尽きたらおしまいです。またリーマンショックのような有事がいつ何時やってくるかわかりませんから、不測の事態に備えてお金を残しておこうという発想は、経営者であればあって然るべきとも言えます。
しかし、「お金を残す」ということにフォーカスすることは危険です。
これは、お金というものの成り立ちをみるとわかります。
お金、つまり貨幣制度が生まれる前は、物々交換で人は必要なものを手に入れていました。しかし、自分が欲しいものを相手が持っており、なおかつ相手が欲しいものを自分が持っているというマッチングを成立させることは難しく、非常に非効率でした。
そこで、モノを差し出す代わりに石や貝を使って、好きなときに好きな人と交換できるようにしました。これによって飛躍的に「交換」がやりやすくなり、市場経済というものが生まれる契機となりました。
もちろん、当然ながら石や貝そのものには価値はありません。しかし、それらを用いることによって「交換」が一気に進み、経済が進んだ。つまり、「交換すること」で価値が生まれたのです。
まさに、人類学者レヴィ=ストロースが唱えた
「価値があるから交換するのではなく、交換するから価値がある」ということ。
つまりお金は使ってなんぼということです。
もちろん無駄遣いしても意味がなく、お金を何に使うかが大事には違いありません。しかし、「お金を残そう」と思っていると、その反対項である「お金をつかう」ことそのものを悪とみなしてしまい、本来使うべきところで躊躇してしまうのです。
また、お金の使い道を決めることは経営の根幹であり、簡単に決められることではありません。また使った以上リターンという結果を出す責任が生じますので、お金を使わずに残しておく方が精神的にラクなのです。
しかしながら、ラクな方に逃げていては経営になりません。経営者は常に「お金を使う」ことを意識し、何に使うかを考えていかなければならないのです。
私自身もミスミ勤務時代に当時社長であった三枝氏から「金余りは死の予兆だ」と言われ、しっかり事業にお金をつかうことを厳しく求められましたし、使うべき経費を抑えて利益を出す計画を提出しようものなら即刻却下されました。
現に、時価総額がトップクラスの会社は配当せずに、事業投資にお金をまわすところが多いです。グーグルしかりアマゾンしかり。アップルもマイクロソフトもかつては無配でした。なぜなら、配当するより事業にお金を使った方が事業価値が上がるからです。
これはお金の使い道が見えているからできることです。いくらお金を残したとしても、お金の使い道がなくなったら事業は衰退へと向かいます。
「時間」というものは貯めておけないため、有効に使わなければ無駄となることがは誰でもわかります。しかし、お金は貯めておくことができるため、いつか有効なものに使えばいいと思いがちですが、これは勘違いです。世界は他者との関係性でなりたっており、常に流動的です。使う「タイミング」を間違えれば、それは有効な使い方とはならないのです。
では中小企業は何にお金を使っていけばいいのか?
ポイントは「消費」ではなく「投資」、つまり価値を生み出すものにお金をつかうことです。
ちょっとお金が余ってきらた、ポンッとキャッシュでベンツを買う。社長の虚栄心は満たされるでしょうが、ベンツが事業上の価値を生むことはありません。価値を生まないものは「消費」です。
会社負担で社員旅行で海外へ。これも一時的に社員のやる気や会社への忠誠心は上がっても、本質的な会社の強みにはつながりようもありません。
社長は社員のためにも消費ではなく投資にお金を使わなけれななりません。意味のあることにしっかりお金をつかって強い会社にすることが、結果的に社員を大切にすることにつながります。
投資と言っても金融投資ではありません。誰でも手が出せる金融商品に投資をしても意味がありません。そうではなく、長期的な強みを生み出すものに投資をすべきです。
では何に投資をするか?
それは自分自身、つまり自社の強み構築に投資をすることです。自社が長期的、継続的にお金を生み出すことにつながるものに積極的にお金をつかうべきです。
ただし、ここで注意すべきは投資する順番です。
新規事業に投資をして新たな収益の柱をつくる。もしくは既存事業を伸ばすために、人の採用やプロモーションの強化にお金をかける。どちらも至極真っ当な発想ではあります。しかし、いまの事業の基盤がしっかり固まっていなければ、ヒトやモノへの投資はさらなる混乱を招くだけです。
事業の基盤をつくる上でのポイントは2つです。一つは上位概念であるビジネスモデルや事業戦略を固め、「勝てる絵を描く」こと。そしてもう一つは、その戦略を「組織的に仕組みで回す体制」を構築することです。
この2つがしっかり固まっていれば、その仕組みを早回しし、事業を拡大するための施策も意味をなしてきます。家を建てるときと同じことで、何事も基礎を固めなければその上に何かを積み上げていくことはできないのです。
家は建ててしまってから基礎を固めることは不可能ですが、企業は倒れる前であればいつでも基礎固めに着手することができます。
御社は経営の基盤づくりにしっかり手を打てていますか。