【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第191話: なぜ社員にいい話を聞かせても何も変わらないのか?

「やっぱり社員っていうのは自分のことばっかり考えるんですね…」― お仲間の社長と談笑しているときに出た言葉です。
休みがほしい、残業はいやだ、こんな仕事はしたくない、給料をもっと上げてほしい、リーダーにはなりたくない…
自分のやるべきことはそっちのけで権利を主張するばかり。中小企業の経営者というのはも実に弱い立場に置かれていると。
確かに、社長と社員では意識レベルがまったく異なります。社長は大前提として「会社を潰してはならない」というプレッシャーといつも戦っています。事業がうまくいっていて儲かっている会社の社長であってもその気持ちは変わらないでしょう。苦しい時を経験しているからです。明日がどうなるかなんて誰にもわかりません。
しかし社員の大半は、毎月自分の銀行口座に給料が振り込まれることについて、当たり前と思っています。完全歩合制の営業マンや、成果が出なければすぐにクビになるプロフェッショナルファームの社員などは別にして、「ああよかった。今月も給料がもらえた」などと安堵の気持ちを持つ社員はいないのではないでしょうか。
そして、給料の額についても、少ないとは思いながらもその金額に慣れています。不満はあれどその金額で生活できていますから、「もっと仕事を頑張って生活水準を上げよう!」と奮起する社員は稀です。
そんな、自分のことばかり考えている社員たちの意識をなんとか変えようと社長は頑張るわけですが、いろいろやっても何も変化がない…と、徒労感やあきらめを持たれている方も多いです。
たとえば、世間でよく言われている手法として「理念経営」があります。社員に当社の理念を浸透(腹落ち)させて、働く意識を変えてもらおうと。
しかし、社長がいくら理念の重要性を繰り返し訴えたところで、社員からしたら「ピンとこない」というのが本音のところでしょう。彼らにとっては理念なんて「宇宙語」にしか聞こえず、「だから何?」となってしまう。
下手したら、社長が理念を語るほどに社員は現実(現場)とのギャップを感じてしまって、ますますしらけるという結果になる可能性もあります。(そういう現場も多数目撃してきております)
社長がいくらいい話をしても社員は変わらない。そこで、自分では役不足だということで外部講師を招いて刺激を与えようとされる経営者もよくいらっしゃいます。
しかし、いくらその講師がモチベーションを高めるような話をしたところで、社員が明日から奮起して前向きに仕事に取り組むかというと、これも期待薄でしょう。もともと意識の高い社員はそういった話を聞いてますます頑張るかもしれませんが、普通の社員は翌日に現場に戻ったときにはもうその話は忘れているか、そこまでひどくはなくても、聞いた話を実際に自分の仕事に結びつけて変化を起こせるかというと、これは非常に難しいことです。
そもそも、いまやYouTubeなんかで成功者のスピーチなどいくらでも聞けますし、経営には興味がなくてもホリエモンやキンコン西野さん、Showroom前田社長といった有名人の話ぐらいは多少なりとも耳に入っている人も多いでしょう。それでも「まあそうかもなあ」ぐらいにしか思わない人が大半だと思います。
ではどうすれば自分のことしか考えない社員の意識を変えられるのか?
その答えは、やはり「理念」です。
「え? 理念をいくら語っても駄目なんだろ?」
「やっぱりコンサルだから理念を商売のタネにするのか」
などと思われたかもしれませんが、そうではありません。私は理念を商売のタネにはしておりません(笑)。
商売をやるにはやはり理念が出発点であると私は心からそう思っています。しかし、申し上げたように、それをそのまま社員に伝えても駄目だとも思っています。
何がいいたいのかというと、一番大事なことは「その理念を実現する具体的な方法を考え、具体的に行動する」ということです。
こういうと当たり前のように聞こえますが、私がこれまで見させていただいたり、関わらせていただいた企業の大半が、自社の理念と実際にやっていることにギャップがありました。
非常に失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、極端にいうと「言っていることとやっていることが違う」という状態です。
会社が理念を掲げて企業として存在する。その意義はなにかというと、「よその会社ではその理念が実現できない」ということではないでしょうか。
よその会社がすでにその理念の実現に向かって動いているのであれば、わざわざ皆さんがやらなくてもいいという話になってしまいます。
「他社に任せておいてはまったく不十分だ。」
「うちがやらないとまずい!」
「我々の手でこの業界を変えるんだ!」
そういう切迫感や使命感が理念のベースになっているものだ、と私は思います。
そうであれば、必然的に自社の事業モデルや実際の商品・サービスの中身も他社とは違ったものになるはずです。他の会社と同じことをやっていたのでは、その理念を実現することは難しいからです。
「当社の理念の実現に一歩でも近づくためには、この商品、このサービスを打ち出さなくてはならない。」― その想いから事業を展開し社員を巻き込んでいれば、彼らの意識も必然的に変わります。自分たちの「仕事の意味」が書きかえられていきます。
社員にとって理念は宇宙語であっても、自分たちが生み出す商品やサービスは非常に身近なものです。当然地球語で認識します。その身近なものに思いっきり想いを込める。それしか社員の意識を変えることはできません。
つまり、理念と同様に自社の商品・サービスにも最大限の想いを込めるということです。
非常に当たり前のことを言っているかもしれませんが、これが本当に社内で当たり前になっているか、ぜひ確認されてください。もっと想いを込められる余地があるのでしたら、それは御社がますます飛躍するチャンスです。