【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第210話:社員に仕事の自由度を与えるべきか否か

「中川さん、標準化を進めると仕事の自由度がなくなって、社員にとっては面白くなくなるんじゃないですか?」── 先日個別相談にお越しになったF社長がこう言われました。
「ではお聞きしますが、F社長はスタッフがみんなバラバラの作り方をしているマクドナルドに行こうと思いますか?」
とお聞きしても、そもそもマクドナルドには行かないとおっしゃるので質問を変えました。
「では行きつけの居酒屋で好物のポテトサラダを頼んで、最初は美味しかったけど次に行った時は味が変わっていたらどう思いますか?」
「あるいは社長がアマゾンの物流責任者だったとして、梱包スタッフが毎回梱包のやり方を迷っているとしたら、放っておきますか?」
「もうわかりました、なんでも自由にしたらそうなりますね」とF社長は苦笑されました。
「社員に自由にやらせる」「やり方は彼らにまかせる」── このように言うと聞こえはいいのですが、実は当の本人である社員たちは「やり方は会社でちゃんと決めてくれよ…」と思っていたりします。
また変な例えになりますが、「強くなりたい!」と思って町の空手道場に入門したところ、そこの師匠に「型は好きにやったらいいからな。ここではみんな型は自分で編み出すんだ」と言われたらどうでしょう? 辞めますよね、そこ。強くなるためにその型を教えてくださいって話です。
あるいは、ちゃんと型を教えてくれる道場に行ったものの、曜日によって違う人が教えていて、同じ流派の同じ型なのにそのカタチが人によって全然違っていたとしたら、これも困りますよね。いったいどれが正しいの?ということになります。
極端にいうと、上記と同じことがビジネスでも起こっていたら、社員は当然困惑したり、本来出せるはずのパフォーマンスが出せなくなりますよ、という話です。
例えば、まだ経験が浅かったり、能力がそれほど高くない社員の場合。営業マンであれば、トップセールスマンの先輩たちが編み出した「売れる必勝パターン」を知りたいはずですし、いい営業資料があるのなら当然自分も使いたいはずです。
あるいは、見積もりを作成するのに、ほとんどの社員は紙と鉛筆と電卓を使ってやっているところ、ある先輩だけがエクセルのフォーマットを使ってササっと見積もり作業を終わらせているとしたら、「えっ! そのエクセルください!」となるのは当然のことです。
ここまでお読みになった社長の中には「いやいや、そんなの当然でしょ。だから先輩がちゃんと教えたらいいんだよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、ここで見落としがちなことがあります。それは、その教える側の人間のやり方が「ベストプラクティス」かどうかわからないということです。
たとえば、教える側である「先輩」が複数いたとして、それぞれで仕事のやり方が全然違うなんてことはよくあることです。そうなると必然的にそれぞれの先輩についた後輩たちの仕事のやり方も違ってきます。
では、そうなっていはいけないということで、指導係を一本化するとします。その時に選ばれるのは得てして「感覚で動く長嶋茂雄タイプ」だったります。彼らは自分のやっていることが自分で言語化できないですから、当然後輩に引き継がれることはありません。
あるいは、面倒見のいいタイプでコミュニケーション能力も高い社員が後輩の指導にあたるとしましょう。しかし、その人物が「性格はいいけど仕事はできない」タイプだったらどうですか。彼が後輩に共有したエクセルツールがめちゃくちゃ使い勝手が悪かったり、営業ツールがいまいちピンとこないものだったりしたら悲劇です。
なにが言いたいかというと、「ベストな仕事のやり方を考えて社員に授けるのは経営の役目」だということです。
「経営とは決めること」と私は考えています。ビジネスに正解はないですし、何が正しいかなんてわからないですが、それでも「決める」のが経営の役割です。それでやってみて間違っていたら正せばいいのです。PDCAなんて言葉がなくても当たり前にやるべきことです。
私はよくスタバに行きますが、どこの店に行っても彼ら彼女らのオペレーションは見事です。どこの店でも同じようによく訓練されています。ですから、新幹線が出る5分前でも安心してコーヒーを頼むことができます。
稀に例外もありますが、ほとんどの店舗で忙しいながらもスタッフが余裕をもって笑顔で接客ができています。内心どうかはわからないことではありますが、彼女らは仕事を楽しんでいるようにも見えます。これもオペレーションがしっかり定められていて、採用時に徹底的に訓練されているからではないでしょうか。これが普段からオペレーションがバラバラだったとしたら、社員に仕事を楽しむ余裕などまったくないはずです。
要は、自由度を与えるところと、きちっと決めた通りにやらせるところ、このメリハリをつけることが大事ということです。
自由度を与える部分のメインはやはり「企画・提案」です。新規事業の方向性や商品企画のアイデア出し、より良い店舗作りのための提案など、事業をよくするための知恵はどんどん出してもらう仕組みをつくるとよいでしょう。
一方で、一旦決めたことは社員にちゃんと守らせることです。そうでないと仮説検証が進みません。PDCAはPで決めたことをみんながその通りにDするからCが成り立ちます。「守破離」の「破」は「守」があってこそ生まるのです。日々通常業務でバタバタしている現場でよいアイデアを考える余裕はありません。
御社では「守破離」の「守」はできていますか。いきなり「破」に行って現場が破れかぶれになっていませんか?
社員が本当の意味で自由を味わえるためにも、仕事の仕組み化・標準化を進めていきましょう。