【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第212話:社長が知るべき「社員が勝手に動き出すための仕掛け」

「いやあ、これはぜひうちでやりたいですね!」── 不動産業を営むK社の経営幹部の方々との新規事業のアイデア出しも佳境にはいってきました。
当社のコンサルティングでは、クライアント企業の新しいウリとなるキラーサービスを生み出すために、通常2〜3ヶ月をかけて「ああでもない、こうでもない」と議論を重ねるのですが、その会社の社員の方から冒頭のセリフが出たならば、当社としてはまずは一安心ということになります。
冒頭の言葉を口にされた方は、つい数ヶ月前まで「動いても動いても成果が出ない」という状態で精神的にもお疲れ気味でしたが、今回出てきた新サービス案については「これはいけそうな気がする!」と目を輝かしておられます。
新規事業や新しい商品・サービスを生み出すときに一番大事なことは、その会社の幹部社員の方々が「その事業やりたい!!」とか、「そんなのあったら私が買いたいですよ!」という感じで笑顔で興奮気味に話すようなアイデアを出すということです。
当の本人たちがやりたくならないような事業、あるいは欲しくならないような商品・サービスなんてろくなもんじゃありません。
「そんなの当たり前じゃないですか」と思われるかもしれませんが、日本の家電メーカーなどの大企業においては、新商品を出すこと自体が目的化され、いままでのものと何が違うのかよくわからないような新商品が量産されてきたことは皆さんご存知のとおりです。
そんなサラリーマン的発想で商品開発を続けた結果、経営者自ら開発の指揮をとるダイソンやルンバ(iRobot)などの海外勢、あるいはバルミューダといった家電ベンチャーらが生み出す画期的な商品にまったく歯が立たず、日本の家電事業の多くは撤退や売却の末路を迎えました。
これは大企業に限った話ではなく、他社と変わらないものしか提供できていない企業は、今後非常に苦しくなるでしょう。なぜなら、基本的にはこの先日本は成長していかないからです。
「あれ?アベノミクスで一応プラス成長になってよね?」と思われた方はマスコミお得意の情報操作に引っかかっています。GDP成長率は目標の2%に対して0.9%に留まりました。諸外国が1.5〜2%で成長していますから、日本は実質マイナス成長です。
現に、いまはすでに忘れられている「トリクルダウン」による賃金上昇は起こらず、デフレはまったく解消されていません。皆さんの会社でも賃金は上がっていないのではないでしょうか? 基本的に経済成長は人口増に起因するところが大きいのですが、日本では人口減少に対してもほぼ何もやっていませんし、今後経済が成長基調にのることなど期待できないのです。
何が言いたいかといいますと、今後市場成長は見込めないのですから、企業は新たな市場をつくっていくこと以外に生きる道はないということです。
いままで顧客や競合が見落としていた手つかずの市場(潜在ニーズ)を掘り起こし、自ら仕掛けていくしか企業が成長していける道はありません。
ここで、もしかしたら「日本が成長しないんだったら、うちの会社もそんなに成長とか狙っていかなくても、市場なり、現状維持でいいんじゃないですかね…」と思われるかもしれません。
ここが大きな落とし穴で、そうはいかないのです。現状維持で企業がずっと生きていけるならそんなに楽なことはありません。
なぜ現状維持という選択肢が成り立たないのか。そこには2つの理由があります。
まず1つ目の理由は、御社が変化しなくても、環境が変化するからです。
市場環境というものは我々のコントロールの効かないところで思いもよらぬ変化を起こします。急にブームが起きたり、そうかと思ったら一気に廃れたり、あるいは材料が手に入らなくなったり、秀逸な代替品が発明されたり…。
そんなまるで生き物のような市場でビジネスをやるのですから、自社だけが「止まっている」ことなどできないのです。そして普段から新しい取り組みを起こすことに慣れていないと、急に外部環境の変化が起こってもまったくついていけないということになりかねません。
そして、現状維持という選択肢がまずい理由の2つ目は、社員の心が死んでいくからです。
縮小する市場に合わせてやっていくということは、当然売上も減少していきます。またデフレ経済ですから価格も下がっていく可能性もあり、かつ材料が海外品の場合は値上がりリスクもありますから、収益性を保つことも難しいでしょう。そんな状況の中で、社員のマインドは維持できるでしょうか?
売上も利益率も顧客数もじりじりと下がっていく。おなじことをやっているので感動もない。顧客から感謝の声も届かない。そのような環境では社員を鼓舞しようにも、アメもムチも機能しそうにありません。おそらく優秀な社員ほど辞めていくことでしょう。
結論、企業は常に新しいものを生み出す気概と仕掛けを持たないと、これからの時代に長く生き残っていくことは非常に難しいということです。
逆に、社員が常に自分たちの手で新しい市場をつくっていく習慣を持つことができれば、冒頭の例のように自社の社員は自ら動きたくなるものです。そのような駆動エンジンを自社に埋め込むことが、これからの低成長時代を生き抜く鍵となります。
御社が航海を進めるためのエンジンは動いていますか? ただ漂流して波に揺られるだけになっていませんか?
社員が自発的に動いていく仕掛けを継続的な仕組みとして埋め込んでいきましょう。