【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第211話:これからのブランディングに必要な「隠さない経営」とは

ある日、サービス業を営むS社の幹部とSNSマーケティングの方針について議論していました。
「うちが発信できることなんてありませんよ」と彼らは口々に訴えてきます。Youtubeやインスタなんてうちには無縁だと。
「いやいや、いっぱいあるでしょう。皆さんの悩みとか、苦労とか、揉め事とか、失敗とかー」
「え? 失敗? そんなの発信してどうするんですか?」── ポカンとした表情でこちらを見る皆さんに私は言いました。「カッコつけたってよそと同じようになりますよ。素で勝負しましょう、素で!」
まだよくわからないといった表情で彼らは説明の続きを待たれました…。
最近はFacebookやインスタ、YoutubeといったSNSをマーケティングに利用する企業も増えてきました。しかしながら、ちょっと見ただけで「これはマーケティング的には効果がないだろうなあ」と思うものも非常に多いです。
よくある失敗例としては、商品の説明や画像をあげているだけのものです。
きれいに仕上がった加工品、色とりどりの和菓子、可愛くカットされたワンちゃん、シックに仕上がった建築物…。
こういった、出来栄えのいい自社商品をそれこそ「映える」ようにアップしたところで、画面上は綺麗に見えるかもしれませんが、おそらく顧客のアクションには結びつかないでしょう。なぜなら、似たようなものは他にも腐るほどあげられているからです。
これはSNSに限らず、自社ホームページのブログなどでも同じことで、自社の商品やサービスの説明をせっせとあげたところで、おそらく大した反応はないはずです。商品を見せるだけで反応があるのなら、普通にホームページに商品ページを設けておけばことが足ります。
確かに商品のことだけをSNSであげていてもマーケティングにならない。もっと顧客の役にたつ情報をあげよう!── そう思って、自社が持つノウハウを発信するとしているとしたら、その企業はかなりまともです。
「モノからコト」と言われた時代から、このコロナによって「コトから知恵へ」という時代への移行が加速していると当社ではずっとお伝えしていますが、自社に蓄積している知恵やノウハウを「見える化」して伝えることで、顧客の関心をグッと引き寄せることができます。
これも当コラムや当社が主催するセミナーなどでよくお伝えしていることですが、お客様はあなたの商品を欲しいと思うことはありません。「なにを失礼な!」と思われるかもしれませんが事実です。お客様が欲しいのは自身の抱える問題の解決であって、商品ではないのです。
別の言い方をすると、ビジネスの本質は「悩みの解決」です。ですから、手段としての商品をSNSにあげ続けるのではなく、お客様の悩みについての深い理解を示してあげることで、顧客との距離を縮め信頼を獲得することにつながるというわけですね。
以上は、わざわざ私が言うまでもなくあちこちで言われていることだと思います。今日のコラムでお伝えしたかったことはここからです。ビジネスの本質が悩みの解決なのであれば、皆さんの悩みもどうぞおもてに出されてください!ということをお伝えしたいのです。
皆さんが事業をされている理由はなんでしょうか? おそらく世の中(社会、業界)に対してなんらかの問題意識を持たれているが故に事業をされているのではないでしょうか。そして、その問題の解決に向けて日々悪戦苦闘、四苦八苦しながら進んでいらっしゃることでしょう。そんな皆さんの想いや現場のストーリーをぜひ隠さずお見せになってはどうかと思うのです。
たとえばスーパーマーケットでしたら子どもたちが喜んで食べるような美味しい野菜を求めて全国の農家を訪ねているところでもいいですし、飲食店でしたら新メニューづくりでスタッフが試行錯誤を繰り返している様子でもいいと思います。製造業なら新しい設備の導入を決心した理由を語ってもいいですし、ペットサロンでしたらワンちゃんがストレスを感じないようにわざわざハサミを特注していることを伝えてもいいでしょう。
前々回のコラム「第209話:好調な企業が打ち出す「共感ストーリー」とは」でご紹介したスチールテック社に限らず、自社工場を「見える化」「見せる化」して業績を伸ばしている会社も増えています。あの「ガリガリ君」の赤城乳業も、新設した本庄千本さくら「5S」工場を広く公開したところその年の売上が3割伸びました。
そういった企業が見える化しているものは自社施設だけではありません。その施設をつくることに至った彼らの苦悩や問題意識、そしてビジョンや決意、そういった自分たちの想いをお客様に見ていただくことで彼らをファンにしているのではないでしょうか。
普段の情報発信も同じことです。ソニーや資生堂なら顔が見えないマーケティングでも成り立ちますが、中小企業ではキラキラしたものだけを見せてものブランディングにはなりません。もっと泥臭さ、人間味、そしてかっこ悪さを出されたらよいのです。それだけお客様のことを思ってやっているということですから。
これは社員に対しても同じですが、これからはすべてをさらけ出す「隠さない経営」でないとうまくいかない時代だと私は思います。DXが声高に叫ばれていますが、デジタル化によって効率を求めた先に残る本質は、結局「人」だと思います。
究極のアナログである人間くささ、人間らしさが、お客様の心を打つ。
そのような思いで当社は中小企業の皆さんの事業発展をご支援しています。