【経営革新コラム】 儲かるキラーサービスをつくる社長の視点 第220話:事業家たる経営者と一般のビジネスマンの分ける境界線

「たしかに面白そうな事業アイデアですが、反応があるかどうかちょっとピンとこなくて…」ー 現在キラーサービスのアイデア出しに取り組まれているA社の社長がこうおっしゃいました。
不況のときには仕事を切られてしまいがちな現在の事業内容を転換し、顧客の業績アップにつながるような事業を打ち出したいということで当社のコンサルティングを開始されてからはや数ヶ月が経ちました。
コンサルティングでは、同業他社と差別化するための考え方、思考のフレームワークをご説明したうえで、まずは経営幹部の方々に自社のキラーサービス案を考えていただきますが、それが出揃った段階で当社の案もお伝えするようにしています。
この順番が非常に大切です。新規事業や新サービスを構想するにあたってどのような考え方をたどるべきなのか、これを体得するためには、当たり前ですがまずは自分たちの頭で実際に考える必要があるからです。
自分で考えてはじめて自分たちは何がやりたいのかということが見えてきますし、また新規事業や新サービスを考える手順も頭と体で理解できるようになります。
ただ、やはりその業界に長年どっぷりつかっているとなかなか発想が既存の事業の範囲から抜け出せないということになりがちですので、皆さんの議論も踏まえながらこちらから別の視点で事業アイデアをご提案しています。
その際に、「それはいいですね!やりましょう!」と即座に乗り気になられることももちろんあるのですが、こちらの案に飛びつくのを躊躇される場合も少なくありません。
躊躇される理由としてよくあるものが2つあります。ひとつは「その需要があるのかどうかわからない」ということ、そしてもうひとつは「それを自分たちでどうやってできるのかわからない」というものです。
まず後者の「やり方がわからない」というのは大した問題ではありません。どうやってやるかは調べたり試行錯誤をすればいずれわかってくることですし、自社でできなさそうであれば、経験者を採用したり、他社と提携するという選択肢もあります。
しかも、事業アイデアを聞いてそのやり方がすぐ浮かぶようなものであれば、立ち上げたあとに他社にすぐに真似されてしまう可能性もあります。やはり難しいオペレーションをしっかり仕組みを組んで実現可能にすることですぐに真似されない自社の強みとなりますので、「やり方がわからない」という反応はむしろいいことだと言えます。
問題は前者の「需要があるかどうかわからない」という方です。ここを乗り越えられるかどうかが儲かるキラーサービスを立ち上げられるかどうかの分かれ道となります。新しい需要をつくるのか、それとも既存の需要に合わせるのか、という選択です。
すでに見えている需要に合わせるのは、当然ながら心理的には楽です。売上が上げるのも早いかもしれません。しかし、見えている需要にはみんな飛びつきます。いっとき忙しくなるだけで、大して儲からずに終わってしまう可能性大です。タピオカやフルーツサンドがいい例です。
ちゃんと利益が取れるビジネスをやるためには、新しい需要をつくる必要があります。誰も目をつけていないことをやるからこそ、競争に巻き込まれない無敵の状態をつくれるのです。
一橋大教授の楠木建氏による「経営はセンスだ」との主張があります。経営はスキルではできないので、経営センスのある人物が経営にあたるべきだと。
確かに経営という仕事は万人向けのものではまったくありませんし、なにか勉強したりスキルを身につけたりしたらできるというものではない、ということはそのとおりでしょう。
では経営センスとはどういうものか。いくつかの要素を挙げることができると思いますが、その中の非常に重要な要素にこの「新しい需要をつくる気概があるかどうか」という点が入ってくると私は思っています。
ここで大事なことは「新しい需要を思いつく能力」ということではないという点です。アイデアを出すこと自体に価値があるのではなく、それを実現させようと行動に踏み切れる気概や胆力があるかどうか。ここが事業家たる経営者と一般のビジネスマンを分ける境界線となるのです。
過去の高度成長期の時代、日本企業はすでにあるニーズに対して「他社よりもオペレーションをちゃんとやる」ことで世界を席巻しました。しかし、いまやオペレーション優位性だけでは付加価値が取れなくなりました。この傾向はこれからどんどん加速することでしょう。
つまり、これからは「お仕事、きっちりやります!」では商売にならないということです。企業が利益をあげるためには顧客に対して「自社ならではの提案」を差し出す必要があります。企業に求められる戦い方(戦略)ががらっと変わっているのです。
そして、新しい需要をつくるというのは「新しい世界をつくる」ということに他なりません。「こんな世界が見たい!」という極めて個人的な「好き」がビジネスの起点となります。つまり、経営者がどんな「想い」を持っているかが問われる時代となっているのです。
皆さんは経営者としてどんな世界をつくりたいですか? どうしても自社で実現したい世界とはどのようなものでしょうか?
独自のキラーサービスを打ち出して新しい世界をつくっていく企業を、当社はこれからもバンバン応援し続けます!